2017-09

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或る、未来シーン

   
 それは西暦205X年の或る日のことであった・・・。   
   
   
 「ああ、こんにちは。ご苦労様ですね。もう何度も申し上げていますが、僕は獄中手記など書くつもりはこれっぽっちもありませんから。   
   
 「こうして、面会にやって来るあなたに、気の向くままお話するのは面倒でもないし、構わないんですがね。   
   
 「どうして通り魔殺人事件など起こしたかですって? 昔から、連続殺人みたいなことをしたかったんですよ。他人の未来とか将来とか、幸せとか、夢とか、そういうものを根こそぎ奪ってしまうということを。他人の幸せをねたむみたいな、そんな卑しい人間ではありません、僕は。言い表しにくいですけど、他人の幸せも未来も、すべてを、一切をきれいに破壊して皆無にしてみたいというんですかね、そういう、僕的には崇高で、ちょっと美しさも感じるような目的があったわけです。   
   
 「罪や刑について怖いなどと思ったことはなかったです。どうしたら精神疾患を持っているかのように振舞えるか、偽装できるか、そうやって、責任能力なしとされるための道を自分なりに何年も研究しましたしね。でも、そういう研究というか努力はあまり意味を持たなくなりました。死刑制度が廃止されたことで、もう怖いものはないなと感じ、それで思い切りがつきました。   
   
 「事件についての反省ですか? 特にありません。あっ、ちょっと後悔はありますね。こうして懲役刑を課せられる身はやっぱり辛いし、楽しみらしい楽しみもろくに無くて。   
   
 「遺族の方への言葉ですか? うーん、事件のこと、過ぎ去ったことなどきっぱり忘れて、前を向いて一生懸命に仕事に励んで下さいとか、そんな感じですかね。懲役刑の僕もこうして一生懸命に働いてるんですから、皆さんもやっぱり一生懸命にって。   
   
 「遺族の方からは極刑ということで以前のような死刑が僕に対して宣告されることを望む声が出ていたことを知ってますよ。でも、待ってくださいと言いたいですね。死刑制度はもう無くなったんです。制度や法律を無視した発言はおかしいです。この刑務所を、いわば“終(つい)の住処(すみか)”として僕は出来るだけ長く生き続けます。出来れば、出所もしたいですけどね。とにかく、僕の命が誰かから無理やりに奪われることなど、あってはなりません。   
   
 「それにしても、刑務所で生活するって、思ってもみなかったほど大変です。僕、とにかく朝が苦手なんですよ。10時か11時くらいに起きれる生活なら気分も体調もバッチリなんですけど。そういうこと、ぜんぜん配慮してくれないですからね、ここは。融通がきかないって感じで。   
   
 「朝早くに起こされて、しっかり働かされて、それで、寝なきゃいけない時間が早くて。テレビなんて、深夜の番組がいちばん面白いのに、そういうの、見れないですから。娯楽ってものが少なすぎなんですよね。   
   
 「食事の内容も寂しいもんです。ウナギとか、カニとか、あと焼肉なんかをバンバンにがっつり食べたいんですけど、食事で出て来ないんですからね。ちょっと前、遺族の方が面会にみえて、差し入れを貰いましたが「これを読んでみてくれ」って。本なんですよ。何かの食べ物のほうが嬉しかったんですが、ガッカリでしたね。   
   
 「とにかく刑務所での処遇を、もっと改善して欲しいですね。どうして、こうも不自由だったり、楽しみが少ない世界なのか。世間の、刑務所に入ってない人たちって、もっと自由で、娯楽がいっぱいあって、好きなもの食べて、旅行にも行けるじゃないですか、ホントうらやましいですよね。それにひきかえ、自分はこんなで。不公平ですよね。     
   
 「刑務所も、やっぱり国とかの予算で運営しているんですよね? もっと予算つけて欲しいですね。だから、刑務所の外の皆さんも僕みたく一生懸命に働いて、税金をいっぱい納めて、で、刑務所の予算も大幅に増やして、僕らがここで暮らす環境をもっとちゃんとしたものにして欲しいです。今の僕の最大関心事はそういうことです。   
   
 「あれっ? 今日はもうお帰りなんですか? そうですか、じゃ、また。 今お話したことを雑誌記事にしてもよいかですって? いいですよ、お話したことを通して、刑務所の環境が良くなってくれるかも知れないですしね。   
   
 「あの、リクエストがあるんですが。今度おみえになるときは、何か差し入れをお願いします。寿司とかメロンとか、食べたいもんで。安いのじゃイヤですよ、上等のを。じゃ、よろしくお願いしますね。   
   
   
   
 ・・・死刑制度の廃止論議に関しては或る危惧を持っているものだから、それを表すような架空の小説シーンなど書いてみようと思ったのであるが、上のように書いていたら気分が悪くなってしまったので、ここで筆をおく。   
   

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クラシカルな某

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