2017-11

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書評: 小説「ザッツ・晴らすメント」

   
 (↑)この小説のタイトルは、主人公が披露する都都逸(どどいつ)に基づいている:   
   
   
    避けて通れぬ 浮世の憂(う)さは    
   
    きっちり職場で 晴らすメント   
   
   
 ま、近未来ユーモア/SF/ビジネス/社会派小説とでも呼びたい作品である。   
   
 近未来の日本の姿として、幾つか「うーむ」と唸ってしまうものが描かれている。たとえば、高齢化社会が進行しつつ全体的には人口減が進み労働力人口もしぼんでいく日本・・・日本社会全体が移民、外国人労働者、外国人技能実習生などを上手に活用しつつも、しかし、官民ともに(日本人を含めての)人材争奪戦を繰り広げる。   
 政府は、公務員の中でも自衛官・海上保安官・警察官などは原則的に純粋日本人のみを採用する方針を貫き、また、外人部隊のような制度も採用しない・・・そのような方針のもと、集団的自衛権・国連PKO活動・ テ ロ 抑 止 などを十分に果たしていくうえで自衛官・警察官その他を十分に確保すべく大胆な政策、いわゆる「骨細(ほねぼそ)の方針」が打ち出される。新卒者へのインセンティヴが考案されるほか、人材が官に回りやすくするべく、民間企業に対しては売上高その他の基準にしたがい日本人の雇用人数に制限を加え、それを上回る日本人を雇用する企業には人頭税的なペナルティを課すというのである。   
 企業によっては、特に、外国人を使いこなせない/雇用したくない企業は、上のような規制があるから思うように日本人労働者を雇用できず難儀する。小説の主人公はそのような企業に於いて、自らが率いる職場を少数精鋭部隊としたいがために格闘するがそれを実現できず、やがてはストレスからパワハラその他を繰り返すようになり・・・どんでん返しのある結末についてはネタバレになるので触れずにおこう。   
   
 小説の中、早い段階で「日本人街」という言葉が出て来るが、このときに「この主人公が勤務する職場は日本でない、どこか海外の国にあるのかな?」と戸惑う読者は自分ばかりではなかろう。実は、日本の幾つかの市区町村においては外国人が日本人の数をはるかに上回ってしまうのだ。少数の日本人ばかりが寄り集まって暮らす街を、著者は「日本人街」と表現しているのである。   
   
   
 ところで、実は、著者の里中氏とは知り合いで、今回は特にお許しをいただいて、主人公の発する言葉を大幅に引用させていただくことが出来る。その都度「(中略)」と示すと鬱陶しいので、その旨は「・・・」で示すこととした。パワハラその他を含む発言の数々が過激で露骨で、かつ世間知らずでもある:   
   
 「山田君、いま、ちょっといいかな。この書類を見てくれ。君に処理してもらいたい・・・今夜は残業が出来ないって、君それは・・・えっ、コンサートへ行く? クラシック音楽? クラシック音楽って「新世界」とか「田園」とかいう、ああいうのか? 中学生のとき音楽の授業で聴いたことあるが、ああいうものを聴く大人がいるのか? コンサートなんかよせ。うちは残業が常態化しているから平日の夜は空けておくようにと、いつも言っているはずだぞ。土日も予定を入れないように心掛けてくれ。音楽など趣味にしなくても仕事を趣味にすればいい。そうすればどんなに辛い仕事も喜々として臨むことが出来るぞ。そういや、前にもコンサートに行った奴がいたな。緊急に呼び出す必要があったのにケータイが通じなくて困った。あとで問い詰めたらコンサート中はケータイの電源を切っていたとか悪びれもせずに言いやがって、頭に来たからクビにしてやった。どういう心得でサラリーマンやってんだか。君はそこまで馬鹿者ではないよな」   
   
 「秋山君、例のあれ、まだ報告をもらってないが、どうなってる? 君は呆れるほど仕事がのろいな。それに、昨日だって、午後の会議資料づくりがあるのに昼飯を食べに行ったな。時間が迫ってから資料差し替えやホッチキス綴じで周囲の者の手を借りて、自分で自分がおかしいと気づかんのか? 昼休みがあるからって、昼休みをとらなくてはいけないわけじゃないんだよ。人間は一日三食摂らなくてはいけませんなんて法律、あるか? ねーだろ。寝食を忘れるほどに仕事してバチが当たることはない。・・・おっ、それから、来週の日曜は予定をあけておいてくれ。社長の別荘の掃除の手伝いに行ってくれ・・・えっ、交通費? バカもん、社長の個人的なことで会社が経費支出するような、そんなデタラメ経営をする会社ではない、うちは。それに当社は創業以来、社長も社員もみな家族同然という理念でやって来てるんだ、掃除の手伝いくらいは自腹で参加するのが当たり前だ。俺はな、その日はゴルフがあるんで出掛けられない。ほんとうに残念だが、君はそのぶんも頑張って掃除して来てくれ」   
   
 「田村君、これを急いで処理してくれ、徹夜になるかも知れないが頑張ってくれ。え? 今たくさんの仕事を抱えているし、残業の連続で疲れているので今日だけは残業ナシで帰りたい? 困るよ、君のほかに誰が出来ると思う? 君しかいないんだよ。君は若いから疲れなど何とでもなるさ。“失って初めて分かる健康の有難さ”という言葉を知っているか? その意味は“健康を損ねることをビクビク恐れてはいけない、ぶっ倒れるまで挑んで、もしも本当に倒れてしまったとき、そこで健康の大切さと自分の限界点を心得た、一回り大きなプロの社会人になれる”という意味だ。倒れない限りは大丈夫だ。頑張ってくれ、期待しているぞ」   
   
 「小長井さん、あの産休と育児休業の申請の件だが、休みをもっと短く出来ないか? 君が休んでも人員補充するつもりは無いから、みんなにしわ寄せが行ってさらに忙しくなってしまう。困るんだ。君だって陰口叩かれたくないだろ。だいたい、君、旦那にしっかり育児参加させるつもりがあるのか? 育児は夫婦一緒にやるもんだ、旦那をもっと説得して申請内容を考え直してくれ。申請書を人事部へ回すのはそれからにしておくからな。それと、この伝票、コピーをとってくれ。ん? B5じゃなくてA4でええよん、なんてな、わはははは」   
   
 「春日君、ちょっと。今日は何か調子悪そうだな。徹夜でサッカーをテレビ観戦しただと。子供と一緒に? 深夜残業を嫌がる君が、そういうときには徹夜するのか? おい、頭は大丈夫か? スポーツの経済効果というものを承知しているか? ふむ、ならばスポーツによる経済損失というものも理解してるな? 応援する選手やチームが負けると落胆したり疲労感を覚えたりするだろ、そうすると仕事にもいまいち力が入らなくなったりする。会社のためにならん。お前は会社に損失を与えているのと同じだ。スポーツというものは、どの選手も、どのチームも応援しないこと、それから、もっと望ましいのは試合経過を見るのでなく結果だけを新聞などで確認することだ。悟ってくれ。それから、子供と付き合うのもいい加減にしておけよ。子育てというものは夫婦一緒に取り組むものではない、女親がするものだ。女房に任せて、お前さんは会社のことにもっと注力してくれたまえ、“目指せ、ワーク・ライフ・バランス9対1”というやつだな」   
   
 「ん? 何か用かな? ったく、町田君は待遇のことばかり口にするなあ。当社の“人材活用方針その3”を覚えているか? 頭に入っとらんのか? 馬鹿タレか、君は。“人並み以下の賃金で人並み以上の働きを引き出し、かつ、滅私奉公の精神を醸成する”とあるじゃないか。それから君、うちはユニオンショップ制ではないから労働組合に入る必要は無いんだぞ。脱退したほうがいい。組合活動にかかわって有利な計らいを受けた人間はこの会社にはいない。おっ、そうだ、君はそんなにカネのことにうるさいなら、今度のボーナスの運用を俺に任せてみないか? 日本の“円”への信頼が揺らぎ円安が加速していくだろうから資産構成には外貨預金とか、さもなきゃ外国の株式や債券とかそういうものの投信を含めておくのがいい。儲けが出たら山分けしよう、約束だからな。えっ? そりゃ元本割れリスクなどなどはあるさ、鋭いな。まあそのときはそのとき、損失はぜんぶ君にかぶさってくるわけだが、きれいに諦めることも大事だ」   
   
 「山下君、例のプロジェクトに参加してもらうメンバー候補者リストの件だけどね、ちょっと見直したほうがいいんじゃないか? プロジェクトというものはグループ登山のようなものだ。何人もで一緒に山登りするときにいちばん大事なことは何だと思う? ん? ふむ、確かに余裕のあるスケジュールも大切だな、しかし、このプロジェクトでは時間の余裕など無い、それは許されない。 ん? ああ、なるほど、状況次第では登山を中止して引き返す勇気も必要だが、しかしだ、このプロジェクトは絶対に成功させなくてはならん。もっと大切なことがあるのが分からないのか? いちばん大事なのは、落伍しそうな者、足手まといになりそうな人間、失敗をしでかしそうな者を最初からメンバーに加えないでおくということだ。ちょっとこっちへ寄ってくれ。あのな、このリストの中のこいつとこいつをメンバーから外せ。出来の悪い人間、自力で成長していけない人間には仕事を回さないというのが俺の流儀だ。分かったな。うまくやってくれよ、期待してるからな」   
   
 「竹田君、ちょっとこっちに来てくれ。新居のほう、落ち着いたかな? 実はな、君に転勤の話がある。薄々感づいているとは思うが、うちの会社では君のように家を建てると転勤してもらうのが一種の慣行となっている。どうしてもみんなが赴任を嫌がる地があるもんでな、仕方ない。そこで今回は君の番だ。ん? 何? 小林君の場合は住宅ローンを組まず全額自己資金でまかなったんだから、君とは事情が違う。君はローンを背負い込んで逃げ場が無いだろ、だから大人しく転勤の辞令を受け入れて欲しいんだ。そんなに嫌そうな顔するなよ。転勤を重ねるほどにハクが付くというもんだ。・・・うーむ、それほどまでに嫌なら、代替案も実はある。大沢部長の下で働くのはどうだ? 仕事の内容は俺からは言えん、大沢部長から聞いてくれ。映画やドラマに汚れ役があるように、会社にも汚れ役がある。それをやって欲しい。この間までそれをやっていた人間が自殺してしまってな、至急に人が欲しいらしいんだ・・・何、心配するには及ばない、たとえ君が刑務所に入っても差し入れはちゃんとするし、万一のことがあっても会社からそれなりの金など出るし、俺も線香をあげさせてもらうよ、先々のことをあれこれ考えても仕方ないだろ。それともやっぱり転勤のほうがいいか? 明日中に返事してくれ」   
   
 「梅田さん、この仕事、かなり大変だけどやってくれないか。忙しいのは分かってる。だから、そうだな、急がなくていいから今月中に仕上げてくれればいいよ。えっ? 今日は28日だって? 分かってるさ、ともかく頼んだからな。ん? 今日は残業せずに帰りたいって、それは何でだ? はあ、合コン? 婚活? 君、いくら何でも手遅れだろ。いや、失敬、失敬、そんな怒った顔をしなくてもいいだろ。結婚もいいけど、今は女性も出世を目指せる時代だ。うちの会社だって専務も営業統括本部長も女性じゃないか。いや、そりゃ、社長の娘や姪だけどさ、ともかく家庭を築くよりも仕事に賭けてみないか」      
   
   
 ・・・・・・・・・と、架空の書籍についての批評と引用はここまでにしておこう。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。   
   

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