2017-11

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セルの伝記-その3

   
 さて、172ページ以降に進んでちょっとすると、著者の語りのトーン・気合いというか筆の進み具合というか、そういうものが好転しているかに感じられる。これは気のせいか? しかし、いよいよ1957年以降の話題となり、1961年からセルのもとで勉強した著者にとってはファーストハンドの体験や情報がたくさんある時期なので、やはり、古い資料とにらめっこしながらものを書くのとは違ってくるだろう。   
   
 198ページでは、著者が実際に目にしたセルのミスについて書かれている・・・暗譜で指揮していてオケ・メンバーに合図を出すタイミングを間違えたときのこと。例のひとつとしてはレスピーギの「ローマの噴水」に於けるミスが紹介されている。「トリトーネの噴水」の部分が終わろうとして次の「トレビの噴水」に移っていこうとするときにセルは、イングリッシュホルンと2本のファゴットに対して1小節ぶん早く“入り”の合図を出したという。このとき3人の管楽器奏者はセルの指示どおりに演奏することにし、そして他のオケ・メンバーも事態を呑み込んで同様に追随したため事なきをえたという。   
 本書のこの部分に関して補足説明させてもらえば、このハプニングが起きたのは1961年10月5日(木曜日)の演奏会であったと思われる。本書によれば、同じ演目での2回目公演ではセルはミスをしなかったとされるが、それは翌々日すなわち7日(土曜日)のことを指しているのであろう。   
   
 著者はもうひとつ別の機会に見受けられたミスも紹介したうえでセルの記憶構造について推測をしている・・・音楽についての記憶力というものは視覚によるもの(譜面からの情報、譜面の記憶ということだろう)と聴覚によるものとから出来ており、それら両者のバランスは人それぞれである・・・音楽の、動きのあまり無い個所でセルが記憶のもつれを起こすということは、セルの記憶構造は視覚優位というわけではないのだろうと。(←なお、直訳を避けさせてもらった。)   
   
 なるほど。セルがミトロプーロスの記憶力を褒め、頭の中に詰まっている音符が(髪の根元を突いてしまうから)髪を抜けさせてしまったのだと冗談を言ったりしたのも、譜面の記憶力という点ではミトロプーロスに負けているという自覚があってのことだろう。(ミトロプーロスにはまた、ニューヨーク市だったかの電話帳を開いて見せられたらそのページ内容を記憶できてしまったという逸話があるから驚きだ。)   
 岩城宏之氏はオーストラリアのオケでハルサイを暗譜で振っている途中で突然に譜面の記憶が消えてしまったことがあるらしいが、素人感覚からすればハルサイを暗譜で振ろうという勇気自体が超人的にすら思えてしまう。   
   

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