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STAP細胞ほど万能ではないが
「月日は百代の過客にして、しかももとの水にあらず、諸行無常の響きあり」
・・・この言葉に勝俣は一瞬唖然とし、次いで唸った。
彼は今、自動翻訳ソフトの研究をしているのだ。より正確に言うと、異なる言語を話す者どうしが、それぞれに母国語を発するだけでスマホが相手の母国語に自動翻訳すると同時にその音声も再生し、そうすることでコミュニケーションを成立させるアプリを開発している。
研究は中盤を過ぎ、そうして1万人以上のモニターを募って不具合レポートなど収集する段階になっている。うまく翻訳してくれない例として幾つもの事例が寄せられるが、そのひとつが冒頭の言葉だというのである。
「何じゃ、こりゃ。変なつぎはぎをした文章で、現代の言葉でもないし、こんなもん、うまく翻訳できっこないじゃないか」
そうは思うものの、このつぎはぎが不思議に意味を持って連続しているように感じられ、勝俣の挑戦心はさらに燃えるのであった。
せっかくのダジャレが、翻訳されてしまうとダジャレとして伝わらなくなるというクレームも数多くある。そんなことは勝俣も当初から見越していて例えば「恐れ入りやの鬼子母神」などは開発チームで検討の結果、単に淡々と「恐れ入りました」の意味として扱って翻訳処理するようパターン登録されている。しかし、それでも、ユーザーが自分自身で思いついたせっかくのダジャレが伝わらなくなることは日常茶飯で、その種のクレームは山ほどあり、外国映画を翻訳する人たちの苦労というものに思いを馳せたりもするのであった。しかし、暢気に構えてはいられない、ダジャレを口にするや、時にはアプリが応答しなくなりフリーズしたかのような状態に陥るというクレームも多い・・・ユーザーにしてみると、自分の発したダジャレがオヤジギャグだと断言されているようでクソ面白くない気分になるというのだ。
多くのモニター・ユーザーは、モード設定を工夫して言うなれば「日本人どうしの日本語会話を次々に英語翻訳させての性能チェック」をしてくれている。
或るユーザーから、お昼に入った駅ナカの蕎麦屋で次のような会話がうまく英訳されないというレポートも今日は届いた。以下の(*1)から(*5)までの言葉がそれぞれ妙な具合に翻訳されてしまうというのだ。
「この店は旨いんだよ」 (*1)
「ほお、ホントかね?」(*2)
「駅蕎麦なのに美味しいって意味でね」(*3)
「へー。俺は天ぷら蕎麦にするか」
「じゃあ、俺は冷やしキツネだ」(*4)
・・・
「 Suica を使って勘定できちゃうのも便利なんだよ」(*5)
(*1) This shop is delicious.
(*2) Cheeks, books and money.
(*3) I mean it is tasty though near the station.
(*4) Then, I am a chilled fox.
(*5) It is convenient that you can pay your bill using watermelons.
せっかく音声を認識できても適切な意味・語に当てはめられない、文脈・理屈をうまくとらえられない、表現の程合い・加減にちょっと問題があるとか、また、食べ物メニューの辞書が充実していない等の原因が考えられるが、ともかく、この暑い夏、勝俣の挑戦は果てしなく続きそうである。
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「我思う、ゆえに我あり」という言葉については、意識していない人も多いかも知れないが五音と七音の組み合わせになっている。
で、この言葉のあとに何でもよいから五音の言葉を付すと、不思議と俳句っぽくなる(但し、この際、季語が存在する・しないというこだわりは無視する)。
我思う ゆえに我あり 蝉しぐれ
我思う ゆえに我あり 囲炉裏ばた
我思う ゆえに我あり 涼(すず)む猫
・・・3番目のものでは、主体は詠み手でなく猫サイドと言えようか。
我思う ゆえに我あり ナフタリン
我思う ゆえに我あり 牡蠣フライ
・・・う、万能ではないかな、やっぱり。
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暑中お見舞い申し上げます。
下のは、暑中の焼酎、ではなくビール。いずれも美味いものであった。
